アイデアを引き出す技術

松本 知彦 for Private Time/2015.03.24/仕事仕事

昨年、父の友人でありゴルゴ13で知られる作家、さいとう・たかをさんと話す機会があり、その際に興味深い話が聞けました。
さいとうさんは日本で初めてマンガの世界にプロダクション制度を持ち込んで、分業で作品を仕上げるシステムを確立した人です。
そのシステムによってゴルゴ13を1968年の連載開始から、1度も休むことなく続けているのです。
スゴいですね。

プロダクション制というのは、わかりやすく言うと映画の制作のように専門スタッフが集まって大勢で制作する体制のこと。
マンガであれば絵を描く人、ストーリーを考える人がそれぞれいるわけですが、興味深かったのはさいとうさんがシナリオを描くポジションについて話していた時のこと。
「今まで誰も読んだことのないようなシナリオをゼロから作ることは不可能だし、そんなことはそもそも最初から求めていない。小説でも映画でもいい、過去のたくさんの作品にその基本やヒントがある」という発言でした。
求めているのは作家性ではなく、完成度だと言っているように思える発言でした。
僕もクリエイティブに従事している身として、この発言は非常に興味深かった。
そしてさいとうさんは作家というより、制作のプロフェッショナルだというのを、ものすごく感じた瞬間でした。

そしてもう1人、先月SPACE8で開かれた宇治野宗輝氏の現代美術展のイベントで、ギターを弾いていたブラボー小松さんと話していた時のこと。
「最近の若い子の音楽の聞き方って今流行っているものだけを聞いたら満足しちゃうんだよね。昔みたいに今のアーティストを聞いて、彼らが影響を受けたルーツミュージックを遡って発見するような聞き方は知らないんだよ。」
音楽の聞き方が以前と変わってしまったというのが、残念というか意外な気がしました。

これらの話を聞いて思ったことがあります。
モノを作る仕事は、アイデアを生み出す作業と切ってもきれない関係にあります。
じゃアイデアというのはどうやって生み出したらいいのか?
そんなことを今日は書いてみたいと思います。
商業デザインにおいて、僕自身もアイデアはやっぱりゼロからは生み出せないと思っています。
それは自分の人生の中で経験してきたたくさんの事柄、情報、体験、発見、蓄積されてきたそれら何百のかけらを、頭の中で組み合わせてみることによって、生み出せる可能性が増えると思っています。
それが意外な組み合わせであればあるほどおもしろい。

ここに一例をあげてみます。
これらの例がいい、悪いではなく、こうした考え方、発想のプロセスが有効だと言うことに気が付いてもらえればと思っています。
有名なスマップの広告で、日本でもっとも権威ある亀倉雄策賞を受賞した佐藤可士和。
その作品手法には過去のアーカイブからの引用が見てとれます。
リヒャルト・パウル・ローゼと芸能人のCDを結びつけるという発想は誰も気が付かなかったことでしょう。
そしてフーツラの強いタイポグラフィーは、エディトリアルデザイナーから現代美術作家に転向したアメリカ人、バーバラ・クルーガーから。

imgこの広告戦略はかなり話題になりましたね。

img上はスマップのCDデザイン、下はスイス人、リヒャルト・パウル・ローゼの1950年代の作品です。

img余談ですが、シュープリームのロゴもバーバラ・クルーガーの作品を引用しています。

同時に、ショップデザインにおいても佐藤可士和の仕事は現代美術からの引用が見られます。
原宿にあったUTのインテリアは彼が手掛けたものですが、そこにあるデジタルの掲示板による文字情報は、同じくアメリカの現代美術作家ジェニー・ホルツァーからの引用です。
そこにアートのメッセージはなく、あるのはスタイル=手法のみ。
こうした例でもわかるように、大量消費を批判しているアートを逆に消費アイコンの手法として採用し、まったく別の意味合いを持たせているのが特徴で面白いなと思います。
そこで行われているのは、過去のパーツと現代のパーツを組み合わせて別のモノを生み出しているということ。

img今はもうなくなってしまった原宿明治通りにあったUTのショップと新宿の丸井

img電光掲示版を利用したジェニー・ホルツァーの作品

建築に目を向けても、そうした引用はたくさん見られます。
一例をあげると、建築界のノーベル賞とも言える、プリツカー賞の第1回目の受賞者、フィリップ・ジョンソンの代表作、グラスハウス。
建築家本人が、この作品はミースからの影響だと言っているように、ミース・ファンデル・ローエの代表作ファンズワース邸との類似点がかなり見られます。
しかし、パクリだとか言われることなく、フィリップ・ジョンソンはこれで佐藤可士和と同じく、世界的に権威ある賞を受賞しています。(プリツカー賞は日本人では、安藤忠雄、槇文彦含め6組しか受賞していない)

img1948年に建てられたフィリップ・ジョンソンのグラスハウス

imgモダニズム建築の最高峰、ミースのファンズワース邸。ホントに最高です。

そして最後に、2000年を過ぎてから快進撃を続けるアップルの製品デザイン。
以前、このブログでも書きましたが、そのデザインはブラウンのデザイナー、ディーター・ラムスが1960年代に手掛けたプロダクツからの引用です。
そしてアップルのデザインが素晴らしいことに多くの人たちが共感し、売上にも大きなインパクトをもたらしました。
これらの事例は、よい、悪いではなく、引用の思考プロセスによって、人々に影響を与え、しかも結果的に大きな成功を収めたサンプルです。
僕個人はこれらが、悪いとは思いません。
それよりも、膨大なアーカイブの中から、自分の選択眼で選び、組合わせ、独自のアイデアに昇華できる技術は、ものすごい才能だと思っています。
僕らが目をむけなければいけないのは、過去の優れたアーカイブであり、それを現代の手法でリサイクルし、別のものと組み合わせ、スキーマスイッチを実践して、優れた結果にしていくプロセスです。
僕たちの仕事は、膨大な情報収集とそれらを組み合わせる技術、アイデアのバージョンアップを常に行うことが求められているのです。
冒頭に書いたさいとうさんの言葉にもそれが的確に表れていたし、ブラボー小松さんの言う過去のアーカイブに目を向けない人が増えているという発言にも危機感を持ちました。
このことにクリエーターは全員気が付いて欲しいと思っています。

imgアップルより本当に素晴らしいのはブラウンにおけるラムズの仕事。

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