センスがよいと言われることの正体

松本 知彦 for Private Time/2015.07.03/仕事仕事

先日から何度かこのブログでフォントの話をしてきました。
ここ最近見られるデジタルフォントの話にはじまり、ブルックリンのチョークアート、ファビアン・バロンのエディトリアルデザイン、ルウ・ドーフスマンのコーポレートブランディングなどなど。
たかがフォントと思われがちですが、フォントは常に世の中の流れとシンクロしているのです。

imgポパイに見られるWeb(デジタル)と新聞(アナログ)を融合したデザイン

さて、今日はそれらを少しまとめた話をしたいと思います。
会社では毎週スタッフを集めて全体ミーティングなるものを開いているのですが、そこで僕からこうした話をみんなに毎回しています。
特にテーマが決まっているわけではなく、自分が感じたこと、気が付いたことを毎回脈略なく話しています。
昭和の会社には、部下と飲みに行く機会があり、そこで上司が部下へ仕事に対する姿勢を話す「薫陶」と呼ばれる時間がありました。
それによって部下は仕事に対する考え方や姿勢を、上司や先輩から学んでいた。
しかし現在、ゆとり世代のスタッフたちと飲みに行く機会はなくなり、「薫陶」の時間は存在しません。
組織で部下の成長を促すためには、業務中どこかでその時間を持たなければならない。
そのことをメンターからアドバイスされたことが、毎回みんなの前で話をするきっかけになりました。
話の中で、一貫して僕が伝えたいことは、考え方の方法論、フレームワークです。
これはクセのようなもので、毎回毎回繰り返し実践してみてはじめて自分の身に付くものだと思います。
業務に関することの気付きを与え、モノの見方について少しでも共有できればと思って、毎週話しているのです。
昭和だったとはいえ、僕が若い時にそんな話をしてくれる先輩、上司はいませんでした。
自分が今その立場になって、自分が若い時に経験できなかったことをみんなに少しでも与えられれば、という気持ちで話しています。
フォントというのはその1つの事例に過ぎません。

imgすべての業務に当てはまる有効な思考プロセス。

フォントのテーマで僕が話した内容は、大体以下のような事柄です。

市場調査
ブランド成立に欠かせないのはフォントである。
フォントがもっとも使われている媒体を調べれば、フォントの今が見えてくる。

考察分類
雑誌に使われているフォントの事例を調べて、 どのような傾向があるか分類してみよう 。
発行部数が多い雑誌ほど影響力が強いはず。

結論
ターゲットや属性によって 使われているフォントは異なる。
そのセオリーを知ることができれば、 仕事上で迅速に利用できる。

imgLOOPという自転車雑誌、最近創刊されたフィナム。どちらにも活版テイストが見られます

img2年前に創刊された男性ライフスタイル誌THE DAYにもアナログな活版と手描きテイスト。

今回男性ファッション誌を主に検証してみました。
与件は、デジタルの反動としてアナログ技術が見直されている、世の中の流れとしてクラシック回帰、チョークアートなどに見られる手描きテイストなどが顕著になっているなどの事象が挙げられます。
アメリカンカルチャーの流行も大きな影響があるでしょう。

img今年4月創刊のクルーエル。サインアートとクラシックテイスト&手描き。

img上からUOMO、FUDGE、OCEANS。同じくセンター合わせのクラシックテイスト。

そんな視点で男性誌を色々見ていくと面白い共通点があることに気付くはずです。
デザインを感覚的に理解していても、実際にどんな事例があるのか、それをどんな際に使用すればいいのかを論理的に説明し、判断することはなかなか難しいと思います。
しかし収集して分類し、結論づけられれば、ある程度のことは見えてくる。
自分の業務に役に立つはずです。
その行動プロセスをみんな普段から実践して欲しい。

img男性誌で一番影響力を持つポパイ。手描きテイスト全開です。

今回取り上げた男性誌では、上記の与件であげた内容がデザインとして共通して実践されていることがわかります。
クラシックフォント、活版、手描き、センタリング
特にライフスタイルを取り上げている雑誌には顕著でしょう。
女性誌も調べてみれば、世代や内容によってフォントやあしらいが異なるはずです。
あとはセオリーを理解するために、ニーズごとの適切な選択軸を掘り下げていけばいい。
こうした行動プロセスを繰り返すことで、自分を常にバージョンアップしてもらいたいのです。

センスとは、誰にでも最初から備わっている才能ではありません。
求められた際に最適な回答を返すためには、情報の偏差値を上げることを常に怠らない努力が必要です。
それこそが「センスがよい」と言われることの正体なのです。

何のために働いているのか?

松本 知彦 for Private Time/2015.06.30/仕事仕事

以前、あるクライアントの仕事をしていて、とても凹んだ経験があります。
それは先方の担当者から言われた言葉によってでしたが、今もその言葉をはっきりと覚えています。

当時は、現在の半分くらいのスタッフの数で、今と違ってすべての案件にまだ自分が関わっていた頃です。
そのプロジェクトは、短納期な上に先方からの要求も高く、過酷を極めたプロジェクトでした。
自分をはじめ、プロジェクトを担当したスタッフたちは全員一生懸命に取り組みましたが、結局壁は超えられなかった。
納品したプログラムにバグがあり、何日も徹夜して巻き返しを図りましたが、最終的に納期には間に合いませんでした。
バグは外注に依頼したプログラムで発生していた。
彼らのバグを最後まで改修できませんでした。

納期遅れを出したあと、最後にクライアント担当者から「結局、松本さんだけですね」と言われました。
彼は松本+アシスタントという体制を見抜いていたのでした。
確かにそのプロジェクトは専門領域外のことも担当しなければならず、その体制では乗り越えられない高度な要求と規模でした。
「一緒にやってみたけど、結局松本さん一人だけ、、」
この言葉は自分に突き刺さりました。
言い得ているからこそ、厳しいものに感じました。
松本だけなら、松本事務所って名前にすべきじゃないか・・・
自分の求める組織の姿は、そんな形ではない。
不甲斐なさを感じました。

imgプロジェクトを担当した3名です

imgいただいたTシャツには彼らの名前が。

半年ほど前、全国にフィットネスジムを展開する上場企業から、新業態の制作物全般を依頼されました。
モデルの手配から撮影、印刷物のデザイン、Webサイト構築まで、一括して担当することになったプロジェクトでした。
無事納品も終わり、先週その担当部署のトップの方が弊社に見えて、感謝の言葉をいただきました。
そして制作を担当したスタッフにTシャツを。
Tシャツにはメインで担当したスタッフ3名の名前がありました。
フィットネスジムでも使える名入りのTシャツです。
嬉しかった。
松本だけ、とクライアントから言われてから10年弱、組織が成長しているように感じて嬉しかった。

img先方の担当者は写真を撮影されて帰られました。

私たちは何のために働いているのでしょうか?
お金のため?自分のキャリアアップのため?
それ以外にあるはずです。
もしそれだけが働く目的なら、もっと効率よく稼げる業種、企業に行った方がよい。
自分が好きなこと、熱くなれること、それを他人が評価してくれる、認めてくれるからこそ、この仕事を続けているのだと思います。
社内の誰かに、相手先の担当者に、企業に、社会に求められていることを実感するとき、この仕事をしていてよかったと思うのです。
相手の喜びは自分の喜び。
今回もクライアントの担当の方からそれを教えてもらいました。
スタッフたちにとって、こうした経験は制作者冥利に尽きるというか、素晴らしい経験だと思います。
大きな拍手を贈りたい。

imgそれを着てそのまま働いている原くん。

組織のメンバー全員がアシスタントではなくプロとして、当事者意識を持って真摯に取り組めば、組織は必ず成長する。
全員にそうした姿勢を持ってもらいたい。
そしてそれを感じられる出来事があったなら、バレーボールでアタックが決まったあとのように、チーム全員でハイタッチをして喜びたい。
今後1人でも多くのスタッフにこうした経験をしてもらいたい、そう思った1日でした。

あの伝説のレストラン、キャンティが代々木上原に

松本 知彦 for Private Time/2015.06.24/食べる食べる

キャンティという名前がついているイタリア料理店はたくさんありますが、キャンティと言えばやっぱり飯倉のキャンティなのではないかと思います。
キャンティ物語という本が出てるくらいですからねえ。
僕も読みましたけど。

imgあの伝説のレストラン、キャンティです。

飯倉キャンティといえば、ある世代の遊び人の人たちにはとっても有名で、創業は1960年ですからもう55年前になります。
貴族の末裔である川添浩史と妻梶子が、当時日本に本格的なイタリア料理店がないという理由から、それなら自分たちで作ってしまおうと開いたのがはじまりです。
その後、同じ建物内にセレクトショップ「ベビードール」を併設し、当時の日本ではまだ手に入らなかったサンローランなどを扱ったことで、本格的なイタリア料理だけでなく、ファッションブティックとしても高感度な人達の間で知られるようになります。
僕はムッシュかまやつのエッセイでそのことを知りました。
六本木というロケーションで、朝まで営業していたこともあり、この店には多くの芸能人、著名人が出入りしていました。
まさに当時の最先端の人たちがたむろする、会員制サロンのような店だったようです。
初代オーナーである川添浩史という人は、キャンティの営業だけでなく、フランス映画の輸入、大阪万博のプロデュース、美術展の企画など、ヨーロッパ文化を積極的に日本へ紹介する文化事業も手掛けました。
高度成長期、日本が西洋に追いつこうと必死になっている時に、カルチャー面において彼が果たした役割は大きかったのではないでしょうか。
しかし本を読んでいくと、プライベートでは決して幸せとは言えないように感じます。
最先端にいる、それを創り出して世に問うということは、どこか破綻につながっていく。
そのしわ寄せが来るのは、今も昔も変わらず私生活であり、家族です。
エッジにいるということは、言い方を変えれば何かを捨ててでも何かを得ようとすること、人生で大事なものであっても捨てる価値観を持っている、常に際どいということ、いつの時代もそうなのでしょうね。
今もそういう人って、常に何かを最優先するあまり、ほとんどの場合は必ず私生活は離婚、破綻、周りの人を傷つけてでも妥協しないケースがあるように思います。
友人にもそういう人たくさんいますが。。汗

img前菜、お腹すいてきましたね 笑

imgこちらのバジリコパスタが有名です。

キャンティのオーナーである川添浩史さんの人生も波瀾万丈ですが、その息子、象郎さんの人生もスゴイです・・・
川添象郎さんは以前風吹ジュンさんと結婚されていた方。
彼が開くパーティに、以前呼ばれて参加したことがありますが、来ているメンバーが凄かった・・・
象郎さんはユーミンをはじめ、YMO、最近だと青山テルマのプロデュースなどを手掛けた人ですが、私生活は乱れまくっています。。。
お父さんの影響もあるのでしょうか。
興味のある人は、林真理子の著書「アッコちゃんの時代」に書かれているので、読んでみてください。
僕が象郎さんにお会いしたのも「アッコちゃんの時代」の頃でした。
キャンティは次男光郎さんが継ぎ、今はその息子である隆太郎さんがオーナーを務めているようです。

imgお店は井の頭通りを少し入った小道沿い、古民家を改造しています。

img出られませんが、ちょっとした中庭もあります。

imgランチタイムは、オールアダルトウーマンで男子は一人もいません。

とにかく、その筋でキャンティは伝説のレストランなのですが、その支店が4月末に代々木上原にオープンしました。
またしても代々木上原、、恐るべし・・・
場所は、都知事選に立候補して話題になったIT企業のオーナーがオープンさせたイタリアン「IRI」が以前あった場所。
その店がクローズしたあと、キャンティが居抜きでそのまま営業しています。
民家を改造した雰囲気のあるインテリア。
小さな庭もあって、天気のよい日にランチがよいと思います。
しかし、IRIの時もそうでしたが、ランチのお客さんはオバサマたちばかり・・・
しかも決めキメに武装したオバサマ方です。
男子は一人もいないので、男子の皆さんは女子と連れ立って行った方がよいでしょう。
キャンティと言えば、バジリコのスパゲティが有名ですが、代々木上原店でも食べることができます。
ぜひ。

新宿 珈琲ピース

松本 知彦 for Private Time/2015.06.22/食べる食べる

90年代に出現したカフェカルチャーの台頭により、いまやこの世から消えようとしている古き良き喫茶店。
喫茶店はデートの待ち合わせ場所として、時に外回りの営業サラリーマンの休憩場所として、時に商談や面接の場所として、時に静かに音楽を聴く憩いの場所として、はたまた地元のヤンキーの溜まり場として、長きにわたってみんなに愛されてきました。
しかし新しい時代のライフスタイルの変化によって、今やその役目を終えようとしています。

imgどストレートな光るサインがカッコいい

imgお金がかかっているサイン。斜めの看板に合わせてフォントも斜体に。

このブログのタイトルでもある「談話室松本」は、新宿にあった有名な喫茶店「談話室滝沢」から拝借したものです。
それでもわかるように、僕はこうした昔ながらの喫茶店が好きなのです。
いまやもう、本当に絶滅寸前。
喫茶店とカフェの違いって何だろう?
タバコが吸える、吸えないは大きいでしょうね。
トーストとゆで卵のモーニングセットがあるかないか、メニューにナポリタンがあるのも大きいです。
そして蝋で作られた食品サンプルがある 笑
パンが何枚でも無料で食べられた池袋の蔵王(閉店)は懐かしいところですが、新宿だったらスカラ座(閉店)、同じく王城(閉店)、上高地(閉店)、談話室滝沢(閉店)、マイアミ(閉店)、新宿にあんなにたくさんあった純喫茶はもうほとんど残っていない。
新宿で今も営業を続けているのはらんぶるくらいでしょう。
でも高田馬場のらんぶるは閉店してしまいましたね。
他にも青山墓地脇にあったウェスト(既にリニューアル)、中野クラシック(閉店)、吉祥寺ボア(閉店)、今も頑張っているのは神保町さぼうる、渋谷のらいおん、そしてどこにでもあるルノワール。
まだまだ他にもありますが、昭和のライフスタイルが感じられる数少ない場所として、これらには閉店前には行っておきたいですね。

img店の中は結構広いです。レンガの壁はこの時代ならでは。

img何も言わなくても灰皿が出てきます。

さて今日はその中の1つを紹介します。
僕は新宿生まれなので、新宿のお店が好きなのですが(神保町にはこういう店たくさんありますが)、新宿西口駅前小田急ハルクの隣にある珈琲ピースです。
まず名前がいいですね。
今の子は知らないかもしれないけど、ピースという名のタバコがあって、そのパッケージに使われているロゴのデザインが、そのまんま店のサインになってます。
これで店内禁煙だったら怒られるでしょうね 笑(もちろん全席喫煙OK)
煙草のピースのパッケージデザイナーは、「口紅から機関車まで」の名言や、同じくタバコのラッキーストライクのデザインで知られる、かの有名なレイモンド・ロウイです(この人、アメリカ人ではなくフランス人なんですよ、知ってました?)
たぶん店のロゴはパクリなんじゃないかと思います。。笑
創業は正確にはわかりませんが(お店の人に聞いても、、)50年くらい前とのこと。
店内は不思議な雰囲気、、、でもかなり混んでます。
でも残念なのはナポリタンがないこと。
食品サンプルはちゃんとあります笑

imgこちらが店のサインです。

img本家のレイモンド・ロウイが手掛けたピースのデザイン。同じ・・・

もう数少なくなってしまった昭和を感じることができる「純喫茶」
なくなる前に行っときたいですね。

人を描くのはむずかしい...

松本 知彦 for Private Time/2015.06.17/仕事仕事

つい最近会社のスタッフに頼まれて、人物のイラストを描かねばいけないことがありました。
小さく使うので小さく描いて欲しいというのがリクエストですが、逆に小さく描くのってむずかしい・・・・
描いてみてそれを実感しました。

imgこれらは外人を見ながら描きました。

まず雑誌やサイトなどから描く対象のモデルを探します。
そういう目で見ると、好都合なポーズをしているモデルの写真ってほとんどないのですよね。
見つかったとして、それを見ながら紙に小さく人物の絵を描いていると、これが面白いのですが、日本人を見て描くと日本人に、外人が出てる洋雑誌などを見て描くと外国人を描いた絵になるのです。
それは当り前じゃないかって?笑
まあ、そうなんですけど、僕はいつも目で見ただけのフリーハンドで描くので、体型なんてどうにでもなるはずなのですが、日本人を見て描くと、どうしても出来上がりは日本人になっちゃうのですよね。
絵を見ただけでモデルが日本人なのがわかってしまう。
A4サイズの雑誌に掲載されている大きめの写真を見ながら、10センチ以下の小さい絵を描いても、それは顕著なのです。
当り前かもしれないですが、見た目だけでチャチャッと小さく描いただけなのに差が出てしまうっていうのが、自分としては小さな発見であり、オドロキでした。

長い間デッサンを勉強してきたから、目で見えたままに描いてしまうクセが相当ついているのだなということを実感しました。
見た目のように描けないと、予備校や学校ではエライ怒られて、
「お前、カタチが取れないのか?デッサン狂ってるぞ」
と作品の講評会などで、全員の前で指摘されるのです。
指摘された方はそれがトラウマになって、オレは形が取れないのだ・・・と自信を喪失する、
しかし運動神経と同じで、見えた通りに正確に描くという能力は、生まれつき備わっている才能とも関係があり、見た目の通りに描けないという状況はなかなか改善するものではない、
だから毎日訓練する。
改善には時間がかかる。(かけてもあまり改善しない、、)
だから悩む・・・
そんな人が何人も予備校にいたことを思い出しました。
僕も毎日毎日訓練していた。
時間が経っても訓練っていうのは身体に染みついているものなのですね。

imgたとえば、上の段の真ん中は日本人を見て描きました。

しかし人を描くのってむずかしい・・・
一番むずかしいのじゃないだろか。
16、17歳の高校生の頃、どこへ行くにもクロッキー帳を必ず持ち歩いていた。
学校へ通う朝と帰りの電車の中でも、学校の授業中でも人物のクロッキーを何枚も描いていたことをふと思い出しました。
毎日何時間も何時間も、、あのころは熱かったなあ。
その時のことが今の自分の人格形成に影響を与えているような気がします。
皆さんも、以前訓練していたことが、ふと何かしらの拍子に表に出て、思い出すことってあるのじゃないでしょうか?

銀座伊東屋の新しいビルが本日オープン

松本 知彦 for Private Time/2015.06.15/東京東京

うちの会社、老舗企業のリブランディング業務を手掛けることも多いのです。
コンペだったり、提案だったり、受注経緯は様々ですが、過去にも何度か担当したことがあり、老舗文房具店として知られる銀座伊東屋もその1つです。
銀座本社ビルが完成したタイミングで、先週末一足先にその内覧会にご招待いただきました。

img銀座通りにこのマークが帰ってきました

地方に住んでいる人には馴染みは薄いかもしれませんが、文房具の老舗として知られる銀座伊東屋の創業は1904年、なんと110年前なのです。
元々は洋服屋でしたが、隣の文具店を譲り受ける形でスタートしたという、、、最初は文房具が本業ではなかったという意味でDHCのようですね。
建て替え前のビルは、1965年に建てられたもので、外壁や窓にステンレス素材が使われていたことから通称ステンレスビルと呼ばれていました。

imgGateがコンセプトの新しいビル

地下1階、地上12階にバージョンアップした新しいビルは、GATEがコンセプト。
ビル全体は門のカタチをしており、前面がガラス張りになっています。
今回は内覧会ということで、銀座通り側のオモテではなく、裏からの入場でした。(以前と同じくビルの両側に入口があります)
第1の印象は、ずいぶん広くなったなというもの。
以前は1階から中2階へ至るビルのエントランス部分もごちゃごちゃしていて、かなり狭く感じました。
敷地は以前と同じなので広くなったはずはないのですが、天井を高くして商品をすべて壁側に配置し、売り場のセンターに導線を確保したため広くなったと感じるのだと思います。

img2階はカードやハガキを扱うフロア。実際に投函できるポストがあります。

img3階は筆記具がメイン。置いてある1200本のペンすべてが試し書きできます。

広くなったのは壁際に商品を集中させ、導線を広く取ったことだけが理由ではありません。
商品の取り扱い数を以前の半分以下に減らしている。
でなきゃいくらフロアが増えたからと言っても、このスッキリ感はとても実現できません。
これは新宿の伊勢丹が取った戦略と同じですね。
伊勢丹は森田&丹下の2名によるリモデルで、以前より商品を少なくし、売り上げをアップさせるという逆説的な戦略アプローチを実践。
結果的にその目標を達成しています。
その理由は、たくさんのモノを並べて、ユーザに多くの選択肢を提示するという従来の百貨店型の販売手法を捨て、商品をストーリーや文脈の中でプレゼンテーションして魅力を伝えようとするもの。
これを行うには「体験」というキーワードが欠かせません。
売場のいたるところで体験ができるスペースが必要になります。
伊勢丹でも、特に5階のキッチン売場などに顕著に表れていますが、商品を並べていたスペースをつぶして、そこにキッチンを作り、実際に料理をする体験型ワークショップが開けるような場に充てています。
今までの考え方だと、売れる商品の展示を減らして直接利益を生まないワークショップにスペースを充てるというのは考えられなかったことでしょう。

img4階にはオリジナルノートが作れるカウンター

img竹尾のスタッフが常駐する7階のペーパーフロア

伊東屋にもこのセオリーが導入されています。
紙を選んで自分だけのノートが作れる4階スペース、8階にあるラッピングのワークショップスペースなど。
ちょっとボックス&ニードル(伊勢丹もリモデルで大胆に導入しました)の要素も入ってます。
伊東屋だけでなく、こうした小売りの現場に共通する戦略を見ていると、消費の仕方が以前とは明らかに変わっていることを肌で感じることができます。
モノの豊富さやバリエーションではなく、編集力とプレゼンテーションが勝敗を分ける時代、そこに新たに「体験」や「時間」という立体的な軸が導入されています。
利便性の追求ではなく、不便であっても個々が感じる商品の魅力が購買要因の背景にある。売り手はその魅力をストーリーとして語るために、店舗で「体験」といくファクターを利用するようになってきています。

他にも竹尾とコラボした7階のペーパーフロア。
1日40万で貸してくれる(時間貸しのメニューなし!)10階のビジネスラウンジ。
フリーのレンタルイベントスペースがあるB1。
今までの伊東屋にはなかったジャンル=ホーム、キッチン、ヴィトラの家具をメインで販売するインテリアなどの新しい要素が導入されています。
単純に文房具屋とは呼べなくなってしまった感がありますね。
そして最後に、このビルのポイントは11階で野菜を育てているというところ。
11階で育てられた銀座生まれ、銀座育ちの野菜を、12階で食べられるというのです。
野菜室には、50年前に作られた旧伊東屋ビルのステンレスの窓枠が使われていますが、このアイデアはgoodだと思いました。

img11階にあるルッコラなどを育てる野菜室。

今日オープンした銀座伊東屋本店の新しいビル。
皆さんも銀座に行く機会があったら是非チェックしてみてください。

img11階で育てた野菜が食べられる12階のカフェ。

無印良品 延長コードシステム

松本 知彦 for Private Time/2015.06.12/ライフスタイルライフスタイル

2006年にグッドデザイン賞を受賞。
もう見慣れましたが、これはすごいですよね。
登場した時の衝撃はかなりのものでした。

img発売から随分時間が経っているので、みんな知ってますよね?

img今見てもたまらない、こんなに感動した商品今までにあまりないです。

それまで、だいたいのコンセントはひどいデザインで、よいものは1つもありませんでした。
そこには機能を満たしていればよいという視点しかなく、部屋のインテリアとしてコンセントタップは別にどうでもよいということだったのだと思います。
スケルトンのマッキントッシュが出れば、スケルトンのコンセプトタップが出たり、別にスケルトンである必要はまったくないのですが、どっちかというとコンセントタップはインテリアの一部ではなく、PC周辺機器という扱いだったと思います。

家庭用に、優れた機能性、デザイン性を持ったコンセントタップユニットとして登場したのが、この無印の延長コードシステムでした。
50年以上ずっと使われてきたコンセントユニットに、それまでにない機能を持ち込んだことは画期的で、考えた人はホントに素晴らしいと思います。
冗談抜きに見た時は衝撃でした。
他の人はそんなこと感じないかもしれないですが笑

何がすごいかと言えば、タコ足という概念を、機能とデザインでスマートに見えるように解決している点でしょう。
コンセントタップとコードがつながって一体化された商品しかなかったところに、タップとコンセントを分離したユニットの考え方を持ち込んだっていうのがまず画期的だと思います。
これによってコードとタップを自由に組み合わせて長さを選んだり、ジョイントができるようになった。
デメリットは、、、う~ん、タップとコンセントコードの2つをセットで買わないと機能しないってことでしょうか?
でも、それより遙かにメリットの方が上回っているので、そんなの関係ねーオッパッピーです。

imgこれが最小のプラットフォームで

imgここにコンセントをつなげれば機能し、

imgジョイントタップをつなげれば、さらに多くのコンセントにつなげられる

一人でスゲースゲーと言ってますが、この商品が登場して来た時そう思いませんでした?
僕だけかなあ。。汗
いやあ、これは画期的な商品だと思います。
深澤直人先生のディレクションが入っていると思いますが、才能を感じます。
Made in Japanとして輸出してほしい。

ISAIA  イザイア

松本 知彦 for Private Time/2015.06.09/ファッションファッション

分野的には、ラグジュアリー系統に属するこのイタリアブランドの立ち位置は微妙です。
モードとクラシックのちょうど中間に位置していて、故にこのブランドを愛する人もそんなに多くない気がします。
わかりにくいからでしょう。
なんだかんだ言って、みんなわかりやすいことが重要なのです。
わかりやすい(流行ってる)=イケてる=女子にモテるっていう図式は、僕らの世代だとイヤと言うほどポパイやホットドックプレスによって10代の時から脳裏に刷り込まれてきました。
若い頃はみんな女子にモテたいばっかりに、身の丈に合わないことをしたものです。
しかし、絶食男子が増殖中の今では、その対象が女子ではなくなり、自分自身に代わっているのではないでしょうか。
「女子にモテたい」ではなくて、「イケてる俺が好き」みたいなナルティシズムに取って代わられているのではないかと。
時代とともに目指すゴールは変わったとしても、イケてる信仰は男子の根底には根強く流れているのではないかと勝手に思ったりしております、ハイ。汗

imgブランドのカラーは赤です。

さて、イタリアの服と言えば、最高級のクラシコとしてナポリのアットリーニやキートンがあります。
このあたりのブランドについては、マニアのおじ様たちがたっくさんいて、家系図とか出して説明されちゃうのでここでは省きますね 笑(南イタリアのクラシコの系図の多くはファミリーなのです)
これらはエグゼクティブ向けのブランドで、スーツでも既成で60万以上するのですが、裏を返すとクラシックでトレンド感はあまりありません(おじ様たちに絶対に怒られます・・・・)。
007でピアース・ブロスナンが着ていたブリオーニのように、成功者の証として認知されているブランド。
逆に、若者でもちょっと背伸びすれば買えるブランドとして、ボリオリやラルディーニがあります。
イザイアはこのどちらにも属しません。
どちらかというとベルベストと同じグループに属すると思いますが、流行ってもいないし、それほど安くもないし、形容しがたい立ち位置です。
でもコンサバのベルベストよりは、モード寄りでカッコいい。

imgシャツの裾には赤い珊瑚の刺繍があります。

img一番下のボタンは、赤い珊瑚のように縫われています。そして襟に入っている芯(カラーステイ)にも珊瑚が印刷されていて可愛い。1枚のシャツにこれだけアイコンが入っているブランドはないでしょう。

上にはアットリーニ、下にはラルディーニ、中間を行くイザイアは支持されることはあまりないかもしれません。
わかりにくい分、損をしているのです。
マーケットにおいて、この「わかりやすい」ということが非常に大事なのです。(悪く言うとベタってことになるのですけど 笑)
売れるためには=ユーザの気持ちを掴むためには、どの分野においても、この「わかりやすい」というのはマストだと思います。
でも僕は、このモードとクラシックの双方の要素を合わせ持つ感覚=わかりにくさというのが、絶妙で好きです。
アットリーニやキートンは上がりっていうか(日本では)、遊びの要素があまりなく、その先がないような気がしてしまうのと同時に、自分の上昇志向を満足させるためにある服の気がします。
服が好き、ではなく、これを着てイケてるオレが好きって感じ。
既成スーツに60万投資する金銭感覚を自分は持ってないというのも大きいです。
正直言うと、その価格に見合う価値がわからない。
モードの要素がないエグゼクティブ向け(要は上質だけどコンサバなサンオツの人向け)の服には個人的にはあまり興味がないっすね(またおじ様に絶対に怒られる・・・)
巷ではそれをクラシックと言ったりもしますが。

img

imgジャケットやコートには必ずイザイアのアイコンである、赤い珊瑚のバッジがフラワーホールについてます。

imgハンガーまで珊瑚マークのついた赤で統一されていて、このトータルブランディングが好きです。

さて前置きが長くなりましたが、イザイアは1957年に、イザイア3兄弟によってナポリで設立されました。
幸運を意味する赤い珊瑚がブランドアイコンとなっています。
このアイコンがシャツ1枚を例に取っても色々なところに配されていて、可愛いです。
スーツやジャケットのラペルには、ラルディーニのフェルト製の花ように、赤い珊瑚のバッジがついています。
市場で売られているほとんどのシャツの袖丈が自分の腕には短い中、イザイアのシャツは自分にはギリギリ大丈夫。
大きくカーブしながら開いてカットされている袖のカタチが特徴です。(手首まわりピッチピチですけど)

モードとクラシックの双方の要素を持つブランド。
そしてそういう感覚、着こなしが好きです。
リカルド・テッシもアットリーニもどちらもよい、シャルベのクラシックなシャツにサンローランのロックなパンツを履いたって、それでいいと思うんです。
もうすぐミッドタウンに新しくショップがオープンするイザイア、前述の「わかりにくさ」はどのくらいの人たちに支持されるか、今後の動向を見ていきましょう。

ナプレ 青山 

松本 知彦 for Private Time/2015.06.01/食べる食べる

いい季節になってきましたねえ。
こういう季節になると、なぜか時々ピザを食べたくなります。

img暑くなってくるとなぜかピザを食べたくなります。

紹介するのは青山のナプレです。
ここのピザはおいしいですよね。
店内にある釜で焼かれた、薄くてモチモチのおいしいピザを出すお店は、今たくさんありますが、15年くらい前までは、都内にもまったくありませんでした。
サルヴァトーレクォモもなかった。

ナポリピザのブームがやってきたのはそんな時でした。
当時まだ少なかったナポリピザを牽引した御三家が、青山のナプレ、中目黒のサヴォイ、白金のイゾラの3店でした。
どの店もなかなか予約が取れませんでしたね。
がんばって3つを食べ歩きしたものです。
その後、その手の店のフォロワーがたくさん出てきて現在のような状況に至ります。

imgやっぱりマルゲリータは外せませんね。

imgそしてこちらは4種類のチーズのピザ

御三家であるナプレは、味もおいしいですが、インテリアがとってもカワイイのが特徴です。
オススメは自然光が入る3階の窓際の席。
以前、ランチタイムは常に満席でほとんど入れませんでしたが、今では予約なしでもどうにか入れるようになりました。
久しぶりに食べたけど、変わらずおいしかった。

サヴォイやイゾラは今どうなってるのかなあ。
3店舗の中では、一番早く開店したサヴォイによく行ってました。
当時一緒に仕事をしていたHMVの取締役のイギリス人を連れて行ったことを覚えています。
店名が変わって、同じく中目黒の近くの場所に移転したあと、1回くらい行ったけど、そのあとは全然行ってないなあ。
また久しぶりに行ってみたいものです。

img店は青山通りのスパイラル脇を少し入ったところにあります。

imgオススメは2階を通り越して3階の窓際席です。

imgインテリアの材料はイタリアから取り寄せているのでしょうね。

img床のタイルがカワイイです。

そうそう、サヴォイで修業した人が3年前に代々木公園に店を出しましたが、こちらもかなり賑わっているようです。
修業しただけあって、サヴォイと同じ味。笑
代々木公園には軽井沢からやってきた、これまたピザの有名店エンボカがありますから、ちょっとやそっとじゃ人は集められないだろうと思っていたら、なかなかどうしていつも満席のようです。
カウンターしかないカジュアルさが受けているのかもしれないですね。

imgまた食べたくなってきた。。。

いつ見ても何度も溜息の出るクリエイティブワーク

松本 知彦 for Private Time/2015.05.27/仕事仕事

先日このブログで、Didot(ディド)という書体を使って、ラグジュアリーなファッションの分野でデザインの基礎を作ったアートディレクター、ファビアン・バロンの話をしました。
VOGUE、Harper's BAZAARなどのファッション誌で見せた彼の仕事は、本当に素晴らしいものでした。
ラグジュアリーなファッションの分野では、彼の影響を受けたデザインアプローチが続いており、たくさんのフォロワーが今も後を絶ちません。

imgルウ・ドーフスマンと言えばCBSでの仕事

今日は、ファビアン・バロンと同じくDidot(ディド)という書体を使って、世の中に素晴らしい仕事を残したクリエイティブディレクターの話をしたいと思います。
それはルウ・ドーフスマンという人。
以前このブログでも紹介しましたね。
大御所、亀倉雄策は彼についてこう語っています。
「作品というものは突き詰めれば人間性だと思う。 ルウ・ドーフスマンのデザインがその人間性を高くうたい上げていることに、私は感動しているのだ」
同じく田中一光先生もこのように言っています。
「ルウ・ドーフスマンのデザインや広告には、生々とした、洒落たマンハッタンが浮かぶ。
まるで、映画のジャック・レモンやシャーリー・マクレーンが声を掛けてくれるような、ニューヨークの臭いが漂っている」
このように大御所たちを唸らせる彼のデザインとはどんなものだったのでしょうか。

img並んだ本のように組んだタイポグラフィ。ウィットがあって洒落てます。1961年

imgこちらも1961年の広告。競合のテレビ局NBC、ABCより、もっともコメディ番組が面白いのはCBSだという広告。洒落ているのにカッコいい。タイポグラフィーも秀逸。

imgこちらもラジオを聞きましょうというコンセプトの広告。Didot使ってます。

ルウ・ドーフスマンは、アメリカの大手テレビ局ネットワークCBSの副社長であると同時に、クリエイティブディレクターを40年間務めた人。
長年に渡って同社の企業イメージを創り上げてきた人なのです。
特に同社において1960年代~70年代にドーフスマンが手掛けた自社広告の仕事は素晴らしい。
印刷、TVCM、パッケージ、フィルムタイトル、装丁、DMなどの分野でニューヨーク・アートディレクターズクラブから13の金メダル、23の栄誉賞が贈られています。
その特徴は、簡潔なコピーとシンプルなビジュアルにあります。
極めてシンプルで明快な表現なのに、見る人を唸らせる力がある。
余計なものを削ぎ落とした表現は、深い思考から生まれていることを感じさせるデザインなのです。
英語がわからない日本人でもビジュアルを見れば、何を言いたいのか伝わってきます。
毎回、いつ何度見ても、そこには新しい発見があり、何度もため息が出てしまう。
自分にとって、バイブルのような仕事です。

imgドーフスマンが手掛けた書体「CBS Didot」

img「CBS Didot」を使ったビルのサイン、エレベータホールから時計まで。

彼の仕事の集大成は1966年に完成したCBSの本社ビルでしょう。
建築はエーロ・サーリネン、インテリアデザインはイサム・ノグチ、トータルのクリエイティブディレクションはルウ・ドーフスマンという、巨匠たちの夢のようなタッグによってビルは完成します。
ここでドーフスマンは、フリーマン・クロウに依頼して作った書体「CBS Didot」をビルのあらゆるところで使いました。
現代ではそれほど珍しいことではなくなりましたが、このように建物を含むトータルな企業ブランディングを創り上げた事例は、1966年以前ほとんどなかったのではないでしょうか。
まさに歴史的なコーポレートブランディングの起点なのです。

imgコンピュータがないので全部手描きです。でもこういうプロセスが重要。

ビルの1階カフェテリアの壁面にある、1450以上の文字で食べ物の単語を並べた10メートルにも及ぶタイポグラフィの作品は圧巻です。
この時代、当然コンピュータなどありませんから、アイデアはすべて手描き・・・
このタイポグラフィの作品を復刻させるプロジェクトが始まった矢先の2008年10月28日、ドーフスマンは90歳で亡くなってしまいました。
天才的な表現者でありながら、会社の経営者であり、鋭い嗅覚とディレクションの力を持っている。
こういう人に僕もなりたい。。。

以前ヴィンテージショップで彼の作品集の初版を見つけて購入しましたが、もう1冊、アポロ13号の月面着陸をテーマにした「ムーンブック」という本が有名です。
こっちはさらに高くて、、、、でも今度見つけたら気合いを入れて買いたいなあと思ってます。

imgこのオジさんがルウ・ドーフスマンご本人。

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